市川染五郎の 歌舞伎のとばくち

第10回 芝居のカギとなる書き物の小道具

お芝居の中で友右衛門(市川染五郎)が一目ぼれしてしまった数馬(片岡愛之助)に送る恋文(左)、
数馬を慕うあまり武士の身分まで捨てて想いを告げる恋の歌が書かれた短冊(右)。
いずれも客席からは見えませんが、達筆な文字が書かれています。

約100年ぶりの復活狂言、4年目の再演

今月は日比谷にある日生劇場で、4年前に復活上演した「染模様恩愛御書(そめもようちゅうぎのごしゅいん)−細川の血達磨(ちだるま)−」に出演しています。

日生劇場では、歌舞伎の公演が過去にも行われていて、僕も数回出演しています。とはいえ歌舞伎専用の劇場ではないため、毎回工夫を凝らして"日生歌舞伎"を作り上げてきました。今回は今まで以上にこの劇場の特色を生かして上演をしているのではないでしょうか。

そもそもこのお芝居は約100年近く前に上演されたのを最後に途絶えていた作品で、2006年の10月に大阪松竹座で復活上演されたものです。

復活といっても演出は、大阪松竹座の公演の際に新しく作り上げられ、それをベースに今回の再演では、さらに新たな演出を加えています。舞台装置は装置自体が回転する構成舞台でテンポよく進行し、歌舞伎では珍しい講談師旭堂南左衛門さんとの掛け合で、物語を小気味よく盛り上げていきます。そして数馬(かずま)と友右衛門(ともえもん)の"濡れ場"は、ドキドキするような演出。ふたりは禁断の恋を成就させます。

さらに火事場では日生劇場の特徴ある壁面を利用して劇場全体が火事に見えるような仕掛けを作り、舞台には"宝塚顔負け"の大階段が出現し、"蒲田行進曲"ばりに階段落ちを披露します。今までにない歌舞伎の形が誕生しました。 

このお芝居ならではの見所は"衆道"

今回のお芝居では、迫力ある立廻りをする敵討ちもあり、細川家大事の御朱印状(ごしゅいんじょう)が納められている宝蔵が火事になり、友右衛門が命に代えてそれを取りに炎の中に飛び込んで行ったりと、見所は満載です。

しかし、なんといっても"衆道(しゅうどう)"が題材となっているところがこのお芝居の特色だと思います。"衆道"とは、今で言えば"ボーイズラブ"のことでしょうか。幼少時に父親を殺され、肥後の細川家に仕えている数馬という小姓に、僕が扮する大川友右衛門が一目惚れをしてしまうのです。"衆道"と呼ばれる男同士の恋物語です。

友右衛門が一目惚れをして、恋文を数馬の袂(たもと)に入れ、猛アタックをしていきます。友右衛門のプッシュプッシュが功を奏し、数馬との恋が成就するわけですが、今回はその猛アタックするときに使用している恋文をご紹介します。

書き物の文字は狂言作者さんが担当

歌舞伎では手紙が出てくることがよくあります。恋文はもちろん、密書、言い渡し状、離縁状などさまざまな内容のものがあります。芝居によっては実際に役者が舞台上で書くこともあります。いずれにしても客席からは文字まではなかなか見えません。しかし、きちんと文章は書いてあるのです。

舞台上で役者が書く以外は、狂言作者さんが達筆な字で書いてくれます。狂言作者さんは、大体1演目2人ついています。場面の開閉幕や転換で「チョーン」と柝(き)を鳴らす役目をしていて、舞台が滞りなく進むよう舞台裏を走り回っています。アクシデントなどの対処も瞬時に判断する重要な役割を担っています。それに加えて、手紙などの舞台に出てくる文字を書くのも狂言作者さんの仕事です。

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(右の写真)友右衛門から受け取った短冊への数馬の返信。
友右衛門を部屋に招き入れる時間も書かれています。






今回の恋文にも短冊と"もちがみ"と呼ばれる鼻紙のようなものにも、友右衛門の数馬への熱い想いを書いていただいています。しかも書き損じたものを客席に投げ捨てることもしていて、それには「書き損じ」と書いてもらったものに、ご観劇の記念になればと、僕がサインを入れています。

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(左の写真)花道で数馬への恋文を書く際、書き損じた紙をくしゃくしゃに丸めて客席に投げます。なんと、染五郎さんの直筆サイン入りの書き損じです。






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(右の写真)友右衛門が火事場で命をかけて守った御朱印状。袋も御朱印状も血まみれ。でも、しっかり文字も書かれています。


その他には数馬から友右衛門へOKの返事が書かれた文と、火事場で見つけた袋に入った血まみれの御朱印状を使用しています。文字は狂言作者さんが書きますが、血や汚しをつける作業は小道具さんの仕事になります。

いずれも小さいものですが、このお芝居にとっては、とても大事なアイテムです。ご観劇の際には、こんなところに注目していただくのもお勧めです。歌舞伎の新たな魅力を発見出来るかもしれませんよ。
                                 市川染五郎

「染模様恩愛御書―細川の血達磨―」日生劇場にて・3月26日まで絶賛上演中です!



【ご参考までに】お芝居の中で、友右衛門が恋文をしたためる時には、携帯用筆入れ・矢立(やたて)を使っています。『歌舞伎のびっくり満喫図鑑』の98-99ページでも、下の写真のように紹介しています。



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プロフィール

市川染五郎(いちかわ・そめごろう)

1973年1月8日生まれ。1979年、松本金太郎で初舞台。1981年、七代目市川染五郎を襲名。屋号・高麗屋。端正な顔立ち、華と品と色気を持ち合わせ、立役から女形までこなす、次世代の歌舞伎界を担う一人。復活狂言や新作にも力を注ぎ、また、歌舞伎以外でも映画、舞台、テレビと幅広く活躍。特に若者に人気の劇団☆新感線とのコラボ作品での主演、NHK教育TVの親子で楽しめる歌舞伎体操などで、幅広く新しい歌舞伎ファンを発掘している。松本錦升の名で舞踊・松本流家元でもあり、踊りには定評がある。監修書に『歌舞伎のかわいい衣裳図鑑』(君野倫子著・小学館)、著書に『市川染五郎と歌舞伎へ行こう!』(旬報社)、『瞳に「気品」を、心に「艶」を』(講談社)など、また、近著に『歌舞伎のチカラ』(集英社)がある。
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