市川染五郎の 歌舞伎のとばくち

第5回 新作・乱歩歌舞伎をつくる

人間豹の象徴ともいえる鉤爪(かぎづめ)のついた手、足の衣裳には、さまざまな工夫が。国立劇場の楽屋にて。

10年以上温めてきた企画、第二弾です

今月は国立劇場の乱歩歌舞伎第二弾『京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)』という新作歌舞伎に出演しています。
 
昨年11月に、江戸川乱歩の『人間豹(にんげんひょう)』という小説を父の演出で歌舞伎化し、上演しました。これは、僕が10年以上温めてきた企画です。乱歩作品を歌舞伎化する、という未だかつてない試みを、多くの方が喜んでくださり、今年、その第二弾を上演する運びとなりました。父の明智小五郎に対して、僕は恩田乱学、つまり人間豹の役と商家の娘、大子(だいこ)の二役を演じています。

原案から手がけた作品への思い入れ

昨秋の公演『江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)-明智小五郎と人間豹-』は、原作をもとに、明智小五郎が人間豹をおびき出し対決、追い詰められた人間豹が凧に乗って消えていき、勝負はお預け・・・というところで終わっています。今回、乱歩歌舞伎第二弾を上演することになり、原作にはない人間豹の続きをどうするか、ということになりました。

そこで僕は今回、何を隠そうこの作品の原案を書かせていただくことになりました。あらすじ、役名など、自分の書いたものが、多くの人の手によって具現化されたことが嬉しくもあり、ちょっぴり恥ずかしくもあり、役を演じる以外にもさまざまな思い入れで勤めています。

今回の作品は原作の続きを書き足してしまったわけで、もちろん、それは江戸川乱歩関係各位のご理解をいただけて実現したのですが、時代を置き換え、歌舞伎化された以上に乱歩さんが一番驚いていることだと思います。時代は江戸末期、混沌とした時代に権力を持つものを掻き乱す豹のような人間、恩田が暴れ回るところから始まります。内容は観てのお楽しみということで・・・是非国立劇場に足をお運びください。

動きに合わせて、衣裳を一からつくり出す工夫

さて今回は、その人間豹の象徴とも言える「鉤爪」をピックアップします。外題(タイトル)にも使われているように、人間豹の爪は恩田の代名詞とも言えるものです。原作にもありますが、人間豹は黒豹のごとく、人間離れした俊敏な動きをして暴れ回ります。神出鬼没で鉤爪を武器に殺戮を繰り返し、世の中を不安へと陥れていきます。

人間豹の黒い肌に鉛色に光る長い爪。これを実際の舞台で扮装するにはさまざまな制約があり、細かな工夫をしなければなりませんでした。
 
まずひとつには、衣裳をすばやく脱ぎ着する必要があること。僕が大子という女形との二役を演じるため、人間豹から大子、大子から人間豹に数十秒の間に変わらなければなりません。これを「早変わり」と言いますが、5~6人のスタッフが待ち構えていて僕が引っ込んでくると一斉に脱がせて、そして着せます。絶対に間違えることの出来ない緊張感があり、毎日スリルとサスペンスです。

そこで鉤爪は着けたり取ったりするときにスムーズに出来るように、伸縮性のある素材を使用した手袋状になっています。爪も柔らかい布地で出来ています。
 
もうひとつは、激しい動きにふさわしいものであるかどうかということ。舞台では、人間豹の動きを超人的に見せるため、ワイヤーを使って飛んだり、鉄棒を使って飛び出してきたりします。
 
早変わりのためには滑りやすい生地が良いのですが、動きの部分では滑ると困ってしまいます。そこで指の部分に滑り止めのラバーを塗りました。これで今回の舞台では演出されたものを具現化することが出来ました。
 
先月に続き新作歌舞伎に取り組みましたが、これからも歌舞伎の伝統的な演出である宙乗りや、早変わりを今の技術を駆使して進化させていくことを目指して、頑張っていきたいと思っています。
 
市川染五郎

プロフィール

市川染五郎(いちかわ・そめごろう)

1973年1月8日生まれ。1979年、松本金太郎で初舞台。1981年、七代目市川染五郎を襲名。屋号・高麗屋。端正な顔立ち、華と品と色気を持ち合わせ、立役から女形までこなす、次世代の歌舞伎界を担う一人。復活狂言や新作にも力を注ぎ、また、歌舞伎以外でも映画、舞台、テレビと幅広く活躍。特に若者に人気の劇団☆新感線とのコラボ作品での主演、NHK教育TVの親子で楽しめる歌舞伎体操などで、幅広く新しい歌舞伎ファンを発掘している。松本錦升の名で舞踊・松本流家元でもあり、踊りには定評がある。監修書に『歌舞伎のかわいい衣裳図鑑』(君野倫子著・小学館)、著書に『市川染五郎と歌舞伎へ行こう!』(旬報社)、『瞳に「気品」を、心に「艶」を』(講談社)など、また、近著に『歌舞伎のチカラ』(集英社)がある。
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