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DESIGN CLINIC

SWdesign|Design Clinic 043| アナログの感触 | 私たちはどこへ向かうべきか

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BRAUN ET66 が、なぜ美しく情緒的でかつ人間味があるか。それは、そこに美しい"陰影"があるからです。故・榮久庵憲司氏は言っていました。「ものに影が無くなる時、人間社会は終わる」と。


SWdesign|Design Clinic 043| アナログの感触 | 私たちはどこへ向かうべきか    


BRAUNの電卓ET66 controlの復刻版ホワイトが発売されました。BRAUN社のデザイナーであったDeter Ramsの作品です。

ドイツBRAUN社のデザインとその哲学は、多くのプロダクトデザイナーやメーカーに大きな影響を与えました。極限までにシンプルで美しく、機能を追ったファンクショナルデザインという概念を生み、モダンデザインの基軸をつくりました。デザイナーになることを夢見ていた若い頃の私もBRAUN製品の品格、強い存在感には圧倒されるばかりで、憧れのブランドNO.1だったものです。

1987年の発表ですから、30年近く前のデザインであるET66。しかしその魅力はまったく色あせることなく、むしろ今のどんなデザインよりも凛としたフレッシュさを感じさせてくれます。

丸くふくらんだ円形ボタン、全体のプロポーション、サイズ、レイアウトどれをとっても眺めているだけで幸せになるほどの美しさ、それはなんとも言えない"アナログ感"に起因しています。

"アナログ感"をレトロととらえる人も多いかと思いますが、私の考えるアナログ感とはプリミティブで情緒的、人間的なものです。人間が人間であるために必要な感覚=センスであり、私は、この"アナログ感"が大好きです。それは新しいとか、古いとかを超越した感覚。人が人であるゆえに欲する"心地よさ"がそこにはあります。

近年、この"心地よさ"が暮らしの中で失われつつあると感じるのは私だけではないでしょう。『新しい』とか『未来的』なものが正しいとされる近代消費社会においては、すべてが行き過ぎてしまいました。オーバーデザイン、オーバーテクノロジー、オーバースペックなモノの過剰生産。

年々、アナログ回帰の必要性を強く感じるようになってきました。 「人は10代の頃までに覚えた歌を一生口ずさむ」と言います。これもアナログ感覚です。遠い記憶の中にあるものを美化しながら、心のどこかで探し続け、求めるのです。"心地よいアナログ"を。

ET66の丸く突起したボタンに触れたときに、明らかに感じました。平坦で無感触なタッチパネルである、どんなスマートホンのデザインよりも"心地よい"と。そこには、懐かしい"感触"があったのです。

"なんでもできる"スマートホン。それは"なんでもできる"けれど、"なにも感じられない"モノになってしまいました。

私たちはどこへ向かうべきか。

人とモノの関係、それは人と人の関係そのものだと思います。モノを感じ取れない、それは人を感じ取れないということです。体で、足で、手で感じる"感触"。人間が人間である為に、私たちにはもっとリアルに"感じる"ことが必要なのではないでしょうか。

デザイナーとして、クリエイターとして、この大きな課題に対して地道に、真剣に取り組んでいきたいと考えています。


2015.03.29|11:20|DESIGN CLINIC
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