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Sometime Atlas

第十四章 『マリアの十戒』 09

9.私が年を取っても、私の世話をしてほしい。あなたもまた同じように年を取っていくのだから。


 

 

マリアがこの家に来て5年近く。もうすぐ推定7歳になる。犬の寿命から言えば犬生を折り返したところ。人間の年齢でいうと40代半ば・・・まだまだ健康で元気に暮らしている。

 

 

 

けれど、人間より速いスピードで年を取っていく。やがてマリアも老犬になる。マリアは劣悪な繁殖場で生まれ、繁殖犬として2歳すぎまで食事も満足に与えてもらえないまま子供を産まされていたので、何か大きな病気にかかってしまうリスクが大きいかもしれない。「マリアは同じぐらいの子より寿命が短いかもしれない」と、パパやママはマリアに気づかれないように心配してくれているんだ。

 

 

 

だから毎日を健康で楽しく暮らせるようマリアの健康状態には気を使ってくれる。ストレスをためないように散歩や食事、マリアの生活環境、そしてスキンシップを怠らない。

 

 

 

パパとママは先代のゴールデンレトリバーのナナ先輩を10歳8か月で亡くしている。大型犬でももう少し長生きできたはずなのに・・・まさかこんなにも早く、突然別れが来るなんて思ってもみなかったそうだ。

 

 

nana_negao2002.jpg ナナが9歳のころの寝顔。ナナは1994年7月2日、横浜で家庭犬として生まれたゴールデンレトリーバーの女の子。彼女を家族の一員にしていなければ、ドッグライフプロデューサーとしての今のボクはないと思う。ありがとう、ナナ。

 

 

 

ナナ先輩は晩年糖尿病にかかり、その原因が子宮にあると診断され、血糖値が高いにもかかわらず避妊手術をすすめられ、受けたんだ。翌日、退院した夜に体調が急変して、翌朝ママが1階に降りるとかすかに呼吸をしたナナ先輩が、大好きな場所だったダイニングの床に倒れていたそうだ。

 

 

 

早朝だったけれど、犬友達に電話して獣医師の携帯番号を教えてもらい連絡すると、すぐ連れて来てくださいと言われ、家族全員で病院に向かった。友人親子も駆けつけてくれた。けれども、必死の手当てのかいもなく、13時間後、ナナ先輩の心音は止まった。 

 

 

ナナ先輩は大好きな家族や友人に見守られて天国に旅立った。10歳と8カ月。決して長くはない犬生だったけれど、ナナ先輩は幸せだったと思う。長生きできればそれが一番だけど、寿命ではなく、どう生きたかが犬には大切なことだと、苦労を経験したマリアは信じてる。

 

 

 

パパやママはナナ先輩を亡くしてマリアを引き取るまでの2年半の間、ペットロスだったらしい。ママは自分を責め続けた。老犬に負担のかかる手術をさせてしまったこと。ナナ先輩の異変に気づいたのに病院に連絡はしたものの、留守番電話だったため翌朝まで待とうと判断したこと。まさか死ぬことはないだろうと2階で寝てしまったことを・・・。

 

 

 

いつか、ママはマリアにこんな話をしてくれた。「ナナ先輩がもっともっと長生きして介護が必要になっても、どんなにママの手をわずらわせても、1日でも長く一緒にいたかったのよ」ってね。でもナナ先輩はママを困らせることなくあっと言う間に旅立っていった。

 

 

 

それはナナ先輩の飼い主に対する、最後の感謝の気持ち、恩返しだったかもしれない。「13時間も片時も離れず、見守ってくれたけど、もう十分だよ。みんな疲れたでしょ。別れるのはつらいけど、これから宙に旅立って、ナナを大切に育ててくれた家族みんなをいつまでも見守っているからね。だからもういくよ・・・」

 

 

壮絶な1日だったと思う。

 

 

最愛の愛犬をある日突然、亡くしてしまったら、また失うのが怖くて次の犬を飼うことをためらうかもしれない。愛情が深ければ、深いほど。

 

 

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                                                ナナが大好きだった、近くのお台場海浜公園にて。

 

 

 

でも、ナナ先輩は自分が幸せだったから、同じ空の下で生きている不幸な犬を自分と同じように幸せにしてあげてほしいと、最後の最後にママにテレパシーで訴えたらしい。だからママは2年半という時間は必要だったけれど、里親になることを決心したんだ。

 

 

 

新しい犬を飼うことは、亡くなった先代を忘れようとしたからじゃない。裏切りでもない。犬という生きものが残してくれたすばらしい思い出に感謝し、同じ形をし、同じ目をし、同じ心を持った愛くるしい犬たちを、先代と同じように幸せにしてあげたいと願うからだ。 

 

 

 

パパやママは、マリアのことを先代のナナ先輩と同じように愛し、大切にしてくれている。そしてまた、マリアからも幸せをもらって癒やされているそうだ。犬にとってそんな関係こそ理想だ。

 

 

 

マリアもあと数年もしたらパパやママの年齢を追い越してしまう。5年後は12歳。大型犬はもう老犬だ。介護が必要になるかもしれない。若いときのような愛くるしさもなくなり、ますます頑固になって手を焼かせてしまうかもしれない。パパやママもそれなりに年をとって、マリアのような大型犬の世話は大変かもしれないけど、1日でも長く一緒にいたいと思うんだ。

 

 

 

restaurantokidoro.jpg

マリアが大好きな伊豆河津の「四季の蔵」のダイニング、オッキドーロにて。おばあちゃんになってもくいしんぼうなままなんでしょうね。

 

 

いつまでも健康でいられるよう、食いしん坊は慎まなくっちゃね。うーん、難しい課題だ。

 

 

giardino_maria2011.4.JPG

「健康で長生きできればそれが一番だけど、寿命じゃなく、どう生きたかが犬には大切なことだとマリアは思ってる。えーっと、おいしいものをどれだけ食べたかも!?」。

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