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Sometime Atlas

第八章 『マリアの"一夜にして"ワンダフルライフ 鹿児島の記憶』 06

 鹿児島の記憶ーその6

 

 

 

『 8月15日、Mさんや全国のボランティアのおかげで得られた支援金でいよいよ全頭のフェラリア検査。世の中はお盆で休みなのに、地元の動物病院の先生が繁殖場まで出向いてくれた。マリアたちは夏、蚊がブンブン飛んでいる山の中でずーっと過ごしてきたから、死に至る心臓の病気、フェラリアにかかっていても不思議じゃなかった。検査の結果、やっぱりほとんどの犬がフェラリアにかかっていた。

 

 

 

 

kagoshima_lemon20070710.jpg ゴールデンレトリーバーといえば金色の美しい被毛が特徴ですが、この繁殖場にいる限りみんなボロボロです。お腹をすかし、希望も喜びも楽しみもなく、とても悲しい目をしています。水道設備のない繁殖場では雨は恵ですが、降れば降ったでふん尿で汚れた地面はヘドロ状になり、異臭はさらに強まったそうです。もちろん、蚊もブンブン飛んでいる。 

 

 

 

でも、マリアは奇跡的に大丈夫だったの。マリアが今のお家にきたばかりのころ、公園で飛んでいる蚊を"パクッ"と食べてしまう芸当にママが驚いていたことを思い出すけれど、それも鹿児島の山奥の地獄のような環境下で生きていく上で、フェラリアから身を守るマリアなりの知恵だったのよ。

 

 

 

Mさんたちは繁殖場のオーナーが犬たちの所有権を放棄した後、今までできなかったことをできる限りしてくれた。おなかいっぱいごはんを食べさせてくれた。きれいなお水を飲ましてくれた。過ごしやすいように日よけ用のすだれを設置して、皮膚病で苦しんでいた犬たちを病院に連れて行ってくれた。そして優しい言葉をかけてくれて、いっぱい触れ合ってくれた。まわりにいる人間たちはだから、毎日が本当に忙しそうだった。

 

 

 

そして犬たちのフェラリア検査後、少しずつだけど回りの犬たちがここを離れ、一時預かりのボランティアの元へ旅立っていったことを覚えてる 』。


 

  

 

 

Mさんは毎日、2~3時間の睡眠でこの時期を乗り切ったのだといいます。その間、高熱を出し、足に7針も縫うけがをしたときも、犬たちを1日でも早く繁殖場から救出したい一心で、活動を休むことなどしなかったのです。本当に頭が下がります。


 

  

 

『 そんな日々を重ねていくうちに、ある日突然、繁殖場から外出して戻ってこない犬もいれば、戻ってくる犬もいたの。マリアたちにはとても不思議に思えた。でも、なんとなくここを出られることは幸せなことなんだとみんな気づきはじめていたの。だって出て行くとき、みんな嬉しそうにシッポを振っているんだから・・・・。


 

 

暑い暑い8月が終わり、9月も中旬に差しかかったころ、マリアとランプ姉さんは予防接種のために生まれて初めて繁殖場を出ることになった。

 

 

 

 

kagoshima20070808.jpgマリア (手前) と黒ラブのランプ姉さん。この写真はMさんやSさん、ボランティアの人たちのおかげで、繁殖場の中の環境がほんの少し改善されたころ。MさんやSさんに甘えながら、こんなにはしゃいでいたこともあったみたいです。

 

 

 

マリアは繁殖場で生まれ育ったから、人間社会をまったく知らない。クルマという動く大きな鉄の箱が、街の様子が、外界の空気が、すべて初めての体験で奇妙に見えて新鮮だった。けれど、動物病院はすごく怖かった。大好きなMさんやSさんが一緒で、ずーっとなでてくれていても、前足を突っ張り抵抗してMさんやSさんを困らせた。

 

 

 

その日は日帰りで繁殖場に戻ってきたの。繁殖場の環境、生活がどうであれ、生まれた場所に戻れて、ちょっと安心したのを覚えてる。


 

 

 

2007年9月27日、鹿児島地方の天気は快晴。もうすぐ10月というのに気温は30度を越えていた。そして繁殖場の中はいつになく慌ただしかった。その日、マリアはランプ姉さんといっしょに2度目の外出。それは動物病院でシャンプーをして、全身をきれいに、ピカピカにしてもらい、そこに一泊するためだった。シャンプーはとってもとっても気持ちよかったけれど、それは、今から思えば全国のボランティアの人たちの支援によって、マリアたちを翌日鹿児島空港から飛行機に乗せ、東京に送り出すための、Mさんたちが心をこめて施してくれた旅支度だった 』。


 

 

 

 

初めて動物病院で一泊したマリアは、その夜、小さな頭でどんなことを考えていたのだろう。どんな気持ちでいたのだろう。生まれ育った繁殖場のこと、助け合って生きてきたお母さんや仲間のこと、生まれて初めて自分に優しくしてくれた、かわいがってくれたMさんやSさんのこと。そしてこれから身の回りに何が起ころうとしているのかという不安・・・・。

 

 

 

でも、翌日に迫った、マリアとランプ姉さんの新しい犬生、"一夜にしてワンダフルライフ"の幕が静かに開かれようとしていることだけは確かでした。

 

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