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Sometime Atlas

第九章 『マリアの幸せ』 03 

マリア、生まれてきてくれて、わが家にやって来てくれてありがとう。

 

 

 

マリアが初めて旅行をしたのは、マリアがわが家に来て2ヶ月ほどたった、2007年11月末のことでした。正確に言えば、その日がいきなりマリアの『ワンワンミシュラン』デビューだったのです。

 

 

正直言って、不安でしたね。まだトレーニングも始まったばかりで、なによりそとの世界を知りません。マリアは生まれてから2年半、山奥の繁殖場しか知らず、人間社会と隔離されて育ったのですから。わが家にやって来て1ヶ月間は、環境の変化、人間社会におびえて暮らしていたのも本当です。だからきびしいしつけどころではありませんでした。

 

 

 

 

maria_obie2007.JPGいつもおびえた顔をしていた頃のマリア。鹿児島の山奥から都会へ。突然の環境の変化がそうさせていたのでしょう。 目の表情も今とはまったく違います。2007年11月の写真。

 

 

 

ペットと泊まれる宿ではほかのお客さんや犬とレストランでの食事も一緒、ドッグランでほかの犬たちと出会うこともしばしばです。知らない人もたくさんいます。とくに怖がりのマリアがパニックになったりしないか心配でした。ですから、宿は慎重に慎重を重ねて選んだのです。始めてのドライブですから、あまり遠くないところ。多少の粗相があっても寛大にしてくれるところ。スタッフが格別にペットフレンドリーであること。そんな「宿デビュー」の条件にぴったりだったのが那須にある『イマジンドッグス』でした。

 

 

 

そして何より心強かったのは、以前、わが家に愛犬がいなかった空白期間に、わんわんミシュランの取材現場で偶然に知り合った小谷野夫妻と愛犬のピート君(同じラブラドールレトリーバー)が一緒だったことです。言葉をしゃべれない犬は同じ犬からいろんなことを学びます。犬の中でもとくに気の弱いマリアは那須動物大国でボス犬だったピート君は何より心強い存在だったことでしょう。

 

 

 

宿に行く前に立ち寄った千本松牧場のドッグランでは、生まれてはじめてノーリードで走りました。ピート君と一緒に走り回れたことが本当に楽しかったのでしょう。マリアは今までにない笑顔を見せてくれたのです。たくさん走って、おいしいおやつをもらって、マリアはこのときはじめて犬としての幸せを知り、心から笑い、うれしかったのだと思います。

 

 

 

 

maria&peat2007.JPG以前、那須動物王国のボス犬だったピート君と。始めて会ったのに、ラブラドールレトリーバー同士らしく、すぐに仲良しに。マリアが始めて見せた笑顔です。

 

 

 

宿に着くと、たくさんの犬たちがワンワン吠えて迎えてくれました(イマジンドッグスならではの歓迎です)。マリアは最初こそ怖がっていましたが、しかし初めての宿体験とは思えないほどいい子でいてくれて、なにより楽しそうでした。宿のオーナーにマリアの生い立ちを話すと、「故郷を離れてまだ2ヶ月とは思えない。大変な環境で育った面影がまったくないですね」と驚いてくれました。本当にマリアはレストランでもお部屋でもいい子だったのです 。 

 

 

だからボクたちは小谷野さん夫婦とピート君を交え(もちろんマリアもいっしょです)、ゆっくり食事を楽しむことができ、会話が弾み、そして夜もぐっすり寝ることができました。突然環境が変わり不安になり、深夜にワンワン吠え出したりすることもなかったのです。始めてのお泊まりにしては"満点"を上げてもいいぐらいでした。『わんわんミシュラン』の覆面調査犬の素質は間違いなくあった、というわけです。ホッとしましたよ・・・・・。ドライブ嫌い、宿嫌いでは、今はない!?

 

 

 

 

imginedogs2007.JPGイマジンドッグスのラウンジにて。始めての宿体験なのに、マリアは不思議なほどいい子でいられました。わんわんミシュランのデビューとしては合格です。

 

 

 

今ではボクたちとの旅行は、マリアにとって犬生最大の楽しみのようです。前夜、荷物を用意しているともうそわそわ落ち着きません。

 

 

翌朝、いざ出発となるとわれ先にと玄関から飛び出し、クルマの前でジャンプを繰り返しています。クルマに乗り込むとどうしようもなくうれしいのか、後席やワゴンの荷室でゴロンゴロンと身体をクネクネさせます。しかしクルマが動きだすと、「ペットフレンドリーな運転してね」というアイコンタクトを送るやいなや、すぐ横になってグーグー寝てしまいます。マリアにとってクルマは、楽しいところに連れて行ってくれる乗り物であると同時に、安心できる場所のひとつのようです。今では、クルマがセダンタイプだとリヤドアの前に、ワゴンタイプだと荷室の前にちゃっかりいるのですから、自動車評論犬としての資質も十分。偉いです。

 

 

 

 

maria_forester_koseki.JPG ドライブに出発ワン!! と、喜びを隠せないマリア。車内を汚さないように、プレサーモC-25という素材のウェアを着ています。これはスバル・フォレスターの後席。

 

 

 

思えば、鹿児島の山奥から連れ出してくれたのは鹿児島のボランティアのSさんのクルマだったし、また、羽田空港に到着し、安心して永住できる今の家まで運んでくれたのもクルマだったのです。つまり、クルマに乗るといいことがある、楽しいことがある・・・・・。東京にやってきて、マリアは小さな頭でそう確信したのでしょう。クルマ好きになって当然ですよね。

 

 

 

maria_forester_sea.JPGマリアがお気に入りの南房総にある「見物海岸」に到着。ここは海の間際にクルマが止められ、波打ち際で潮風をたっぷりと浴びることができます。よく、わんわんミシュランの車両撮影に使う、とっておきの場所でもあるんです。 マリアがいかにクルマが好きか、この写真の表情からも分かるでしょう。 クルマは、アメリカでペットフレンドリーなSUVとして大人気のスバル・フォレスター。ペットを乗せるときに便利なアクセサリーも豊富に揃っています。

 

 

 

そんなマリアを見ているとこちらまで幸せな気分になります。たかが犬ですがこんなにも喜んでくれる姿に癒やされ、ボクたちだって笑みがこぼれます。

 

 

 

ところで、崩壊した繁殖場からレスキューされたマリアですから、正確な誕生日は分かりません。そこでわが家に来た9月28日が第2の犬生の始まりということで、ボクたちが勝手にその日を誕生日と決めました。

 

 

 

以来、毎年、1年間、マリアといっしょに過ごせたことに感謝する意味を込めて、お誕生日旅行に出掛けることにしています。マリアが喜びそうな宿を選び、そこでいっしょにケーキでお祝いし、プレゼントを渡します。マリアとしては花より団子で、おやつのリクエストが多いのですが・・・。不思議なことに犬は人間の言葉が理解できるみたいです。なぜなら「お誕生日おめでとう」と声をかけると満面の笑顔になるんです。

 

 

 

 

mariabirthday1.JPG

バースディプレゼントをもらい、ニコニコのマリア。繁殖場時代は、お誕生日もプレゼントもなかった。でも今では1年に一度、こうしてリゾートホテルでお祝いしてもらっています。まぁ、ボクたちも楽しんでいるわけですが.......。

 

 

 

「マリア、生まれてきてくれてありがとう。奇跡のような偶然でわが家にやって来てくれてありがとう。また1年、元気で楽しく幸せに暮らし、旅をしようね」。

 

 

 

お誕生日の夜、主人公そっちのけで祝杯をあげながら、すでに幸せな夢の中にいるはずのマリアに、ボクたちは感謝を込めて、そう語りかけます。

 

 

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