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Sometime Atlas

第四章 『不思議な力』 03

2002年、1月。ボクとカミサン、そしてナナは1泊2日で八ケ岳にある、ワンコと過ごせる高原リゾート、「ワンワンパラダイス」のコテージを訪れていました。ペット大好き!というウェブサイトの特集の仕事、撮影です。モデルとして同行したのは森野さんという近所の奥さまとその愛犬のチャッピーちゃん(ゴールデンレトリーバー8歳♀)。森野さんとは町内のお散歩で知り合い、同じ犬種を飼っていることもあって仲良くなり、以来、ボクの仕事を手伝ってもらうようになったのです。

 

 

 

ワンワンパラダイスは5000㎡もの広大な敷地にプチホテル&レストラン棟のほか、コテージなどが点在。ドッグランなどの施設も充実していて、初めてペットと旅し、お泊まりするのにピッタリな場所でもあるんです(現在でも)。季節的に雪が残っていましたけど、かえって犬たちは大喜び、大はしゃぎ。そもそもゴールデンレトリーバーは寒さに強い。金色に輝く高級な毛皮、着てますから。それはともかく、ペット大好き!のスタッフともうちとけ、プロカメラマンの岩間幸司さんとの息もぴったり。仕事、撮影は無事、終了しました。

 

 

 

ただ、チャッピーちゃんは初めてのお泊まり旅行だからか、初めてのお仕事だからか、まわりに知らないスタッフがいっぱいいるからなのか、ちょっと神経が高ぶっている様子でした。ナナといっしょにワゴンの荷室に乗っているときも、お部屋でくつろいでいるときも、ナナに攻撃的でした。夜、2頭でコテージのリビングルームで寝ているときも、ナナが寝返りをうったりして動くと「ウー」と威嚇するんです。普段、お散歩でいっしょのときにはそんな素振り、見せなかったんですけどね・・・。

 

 

 

chapee_nana.jpg                                             ナナ (左) とチャッピーちゃん。いつもは仲良しなんですが・・・。

 

 

 

それからしばらくして、夕方遅く、カミサンがナナを連れて近所の公園を散歩中、森野さんに連れられたチャッピーちゃんと会ったときのことです。「あら、チャッピーちゃん、顔色悪いわよ」。毛むくじゃらのゴールデンレトリーバーに顔色もないってもんですが、でも、カミサンは薄暗くなった夕方でも、紫がかった鼻の色、舌の色、歯茎の色を見逃しませんでした。森野さんも「2,3日前に病院に連れてったばかりなんだけど、最近、調子悪そうなのよ」との答え。

 

 

 

普通はここで「そうなの、お大事にね」で終わります。でも、戌年生まれ、犬と会話できる!? カミサンはそうじゃありませんでした。

「動物病院に連れて行きましょう、今すぐに!」

 

 

その日、森野さんの家には偶然、クルマがありませんでした。大型犬を病院に連れて行く手段はありません。そこでいっしょにわが家に戻り(近所ですから)ワゴンの荷室に乗せて、ナナの行きつけだった動物病院に連れて行ったのです。昔ながらのご近所、助け合いって感じです。

 

 

 

しかしなぜ、カミサンは獣医でもないのに、チャッピーちゃんの鼻色、舌の色、歯茎の色を見ただけでそこまでの行為に走ったのでしょうか?後で聞くと「チャッピーちゃんが私の顔を見て『すっごく具合、悪いの』ってテレパシーを送るのよ。それは大変、一刻を争うわと感じたから・・・」。それはまさにレモンのときと同じ、"不思議な力"かも知れません。だって、ボクはその前日にもチャッピーちゃんと会っているのに、まったく気づきもしませんでしたから。

 

 

 

カミサンの予感、"不思議な力"は残念ながら、間違っていませんでした。チャッピーちゃんは末期の癌と診断され入院したまま、あろうことか2日後に息を引き取ったのです。8歳と半年でした。

 

 

ナナと仲良しのはずのチャッピーちゃんが八ケ岳で神経が高ぶっていたのは、ナナに攻撃的だったのは、そうなってしまうぐらい、調子が悪かったのでしょう。つらかったのでしょう。

 

 

 

カミサンには心残りがあります。もし、私が何もしていなかったら、チャッピーちゃんは家にいたまま、家族に見取られて天国に行けたのではないか・・・と。いや、ボク的には入院したことで癌の苦痛が少しでも和らいだまま息を引き取ることができた・・・とも思えるんですが。

 

 

chapee_furisu.jpg フリスビーが得意で大好きだったチャッピーちゃん 。森野さんが里親として引き取ったゴールデンレトリーバーです。ママとお散歩のときはいつもフリスビーをくわえていました。

 

 

森野さんや家族が突然の不幸に悲しみに暮れたことは言うまでもありません。当時、お悔やみに訪れたときの森野さんの一言は今でも忘れません。「もう、チャッピーとお散歩することはできないのね・・・」。毎日の日課となっていた愛犬とのお散歩という楽しみ、喜びがある日突然、病魔に奪われてしまったのです。それがどれだけ大きな意味を持つのかと。

 

 

 

しかし、ペットロスでふさいでいた森野さんの気持ちをほんの少しでも晴らしてくれたのは、 ペット大好き!の八ケ岳ロケで同行した、プロカメラマンの岩間幸司さんからの一通のメールでした。そのころ、岩間さんは遠い海外で撮影中でしたが、ボクが今回の一件を報告がてらメールしたところ、海外からわざわざ返信してくれたのです。

 

 

 

ボクが森野さんに転送した、岩間さんのメールの内容はこうでした。
「チャッピーちゃん、とても残念です。八ケ岳の取材、撮影ではあれほど元気でいたのに。でも、森野さんの家族の元で暮らし、とても幸せだったはずです。そして天から与えられた命をまっとうしたのだと思います。心からお悔やみ申し上げます」 

 

     

森野さんは「天命をまっとうした」という一文が、チャッピーちゃんの死を受け入れる糸口となり、悲しみを和らげてくれたといいます。

 

 

 

ペット大好き!のスタッフは、岩間さんが撮影した100枚を越える生前の生き生きとしたチャッピーちゃんの写真をプリントしてくれました。しばらくして森野さん宅を訪れると、タワー状の写真立てにそのすべての写真が張り付けられています。

 

 

森野さんが「あのお仕事があって、最後にいっしょに楽しい思い出ができて、この写真が残っているから、本当によかったわ、救われるわ」と言っていたことを思い出します。

 

 

 

実は、ペット大好き!の特集にナナとともに出演してもらうモデルさんとその愛犬のキャスティングは、取材、撮影直前まで決まっていませんでした。何人もの飼い主の方に声をかけていたのですが、しかしカミサンが突然、「どうしてもチャッピーちゃんじゃないとダメ」と決めたのです。

 

 

 

チャッピーちゃんはその時点で余命2カ月ほどでした(まだ誰も気づいてはいませんが)。まだ一度も旅したことがないというチャッピーちゃんを犬がのびのびと過ごせる「ワンワンパラダイス」で思う存分、楽しませてあげたい、遊ばせてあげたい、たくさんの写真を残してあげたい、家族との思い出を作ってあげたい・・・そんな"不思議な力"が働いたのでしょうか? カミサンの"不思議な力"は、だから、年季、入っているんです。

 

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