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Sometime Atlas

第十四章 『マリアの十戒』 03

3.私を信頼してほしい、それが私の幸せなのだから。

 

 

ダメ犬とかバカ犬とか言われている犬がいるけれど、もともとそんな犬なんて1頭もいない。私たち犬は飼い主と信頼関係で結ばれたいと強く思っている。ダメな犬、バカな犬になってしまったとしたら、それは飼い主が信頼されるリーダーではないからだと思う。

 

 

私たち犬は飼い主の役に立てること、喜ぶ顔を何より望んでいる。だからいつも飼い主をじっと見ている。私を見て、私をかまって・・・・と精いっぱいしっぽを振っても無視され、犬生最大の楽しみの散歩やご飯を忘れられたとしたら、飼い主との信頼関係なんて決して築けはしない。最低限の要求すら満たされなければ、ほえて訴えかけるしかない。腹いせにいたずらをするしかない。そして、しつけとばかり厳しく訓練されても、しかられるのが怖くてその時だけいい子でいるだけ。すぐ忘れてしまう。それが犬なんだ。

 

 

パパやママは先代のゴールデンレトリバーのナナ先輩を飼い始めたとき、知り合いに「信頼されるリーダーになる」という学術的な本をもらったらしい。そしてママは信頼されるリーダーになるため、飼い主と愛犬が一緒に学べる、警察犬訓練士さんのしつけ教室に2年半、毎週通い、そこで愛犬との信頼関係を築く基本的な訓練を習得したんだって。

 

 

犬は人間とは違う生き物。甘やかして育てれば犬がリーダーになってしまうこともある。犬はリーダーになるより2番手、3番手のほうが楽。一番下はイヤだけどね・・・・。人間社会では、社会性を身につけさせてもらいつつも、犬としての在り方のまま暮らしたほうが、実は幸せなんだ。

 

 

家庭犬として必要最低限のしつけができていれば、愛犬との生活は何倍も楽しくなる。留守番しているときほえてはいけない。散歩のときほかの犬とけんかをしてはいけない。トイレを我慢しないといけない。ご飯だって決まった時間まで我慢する・・・・。そんなことを日常の生活の中で教えてもらい、習慣づけてくれれば、飼い主と犬との信頼関係は必ず築けると思う。

 

 

信頼されるリーダーとは、愛犬の食、住、運動、ふれあいを十分に満たしてあげられる飼い主のこと。信頼できるリーダーの下では、犬は従順に、ストレスなく暮らせるんだ。

 

 

ナナ先輩は子犬から飼われ、とってもいい子だった偉大なるレトリーバー。その後、飼われたのが私、マリア。はじめは優しくしてくれるパパやお姉ちゃんでさえ怖がり、家の中でも落ち着くことができず、みんなから逃げ回っていた。

 

 

なにしろ直前まで山奥の繁殖場で暮らしていて環境が大きく変わり、ある日突然、唯一、頼れたお母さんや姉妹と離れ離れにされ、もうパニック状態だったから。だから、繁殖場に戻りたい!そう本心で思ってた。このお家にやって来てしばらく玄関から動かなかったのもそのため。犬らしくなんか振る舞えなかったんだ。

 

 

 

 

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わが家にやって来て、最初のころはガンコとして玄関から動こうとはしませんでした。ずっとドアを見つめている。鹿児島から誰かが迎えにきてくれるとでも思っていたのでしょうか?前足なんかまだボロボロです。カメラに向き合うことにも抵抗があったみたい。

 

 

 

そんなマリアを、パパやママは先代のナナ先輩と比べることなどしなかった。私が家族の一員となるのに、お互いの信頼関係を築くのに時間が必要だということを、パパやママは知っていたから・・・・。パパやママはマリアの(ガンコでもある!?)性格を尊重し、愛情を注ぎ続けてくれた。だから、いつしか互いに信頼しあえるようになった。マリアは氷が溶けるようにゆっくりとゆっくり、家庭犬として生活に溶け込めるようになったんだ。

 

 

 

2歳半まで鹿児島の山奥の繁殖場で名前もなく犬社会の中だけで暮らし、人間とかかわりなく育ったマリアが、この家に来てもう5年近くなる。今ではパパのお仕事の手伝いまでさせてもらえるようになった。雑誌やウェブでナナ先輩の後を継ぎ、自動車評論犬!? やペットと泊まれる宿評論犬!? として、モデルのようなお仕事をしているんだ。

 

 

 

初めてのお仕事は「ワンワンミシュラン」という、ワンコと泊まれる宿の覆面調査。ナナ先輩の遺志を継いだ長期連載のお仕事だった(今では8年目に突入!)。まだ人間社会に降りてきて2ヶ月しかたっていなかったけど、そのときのことは今でも忘れない。

 

 

 

場所は那須の「イマジンドッグス」。その宿には大小25頭ぐらいのスタッフ犬がいて、あちこちでワンワンほえられびっくりするばかり。とても怖かった。でも人間のスタッフはみんないい人たちばかりで、田舎者のマリアを一人前に扱ってくれた。

 

 

 

 

imagindogs07.JPGマリアにとって初めてのお泊まりは、ワンワンミシュランの覆面調査で訪れた、那須の「イマジンドッグス」。 初めてのお仕事でもありました。

 

 

 

宿に行く前に立ち寄った千本松牧場のドッグランでは、その日、初めて会った、同じラブラドールレトリーバーのピート君とノーリードで思いっきり走り回った。ジャレあった。すごく楽しかった。世の中にこんな楽しい遊びがあることを初めて知った。だから、それまで怖かったカメラを向けられたとき、自分でも信じられないぐらい自然と笑顔になれた。初めての旅があまりにも楽しくて、以来、ドライブ旅行が大好きになったんだ。

 

 

 

maria_peat nasu07-1.JPGマリアがボクたちに初めて笑顔を見せたのは、那須の千本松 牧場のドッグラン。ピート君というラブラドールの大先輩といっしょに、のびのび楽しく遊んだからかもしれない。

 

 

 

最近は「お仕事」という言葉も理解できるようになった。「明日はお仕事だぞ。よろしくな」とパパに言われると、また楽しいドライブができる、楽しい旅ができる・・・・と、うれしくてワクワクしちゃう。カメラの前で少しの時間なら笑顔でじっとしていられるようになったんだよ。撮影が終わるとみんなにすごく褒められて、ご褒美におやつがもらえることも覚えた。そしてまわりのスタッフの人たちがみんな笑顔になると、マリアもまたうれしくなる。

 

 

 

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aheadというフリーペーパーの撮影で館山の見物海岸にやって来ました。クルマの前でしっかり笑顔になれます。すると、みんなに褒められる。それがうれしくて、もっと笑顔になれる。

 

 

 

繁殖場時代は食べ物もお水も満足に与えてもらえない劣悪な環境の中にいて、生きているだけで精いっぱいだった。喜怒哀楽どころか、犬らしい感情すら持てなかった。そんな場所からマリアを救ってくれた、鹿児島のボランティアのMさんやSさん、東京のボランティアの人にとっても感謝してる。そして言葉にはできないけど、パパとママが本当に大好き。マリアが家族の一員として何かの役に立っているとしたら、それがマリアの幸せ。今、生きている証。

 

 

毎晩、寝る前にパパとママは体中を優しく撫(な)でてくれながら、「マリアありがとう、大好きだよ」そう言ってくれる。だからとっても幸せな気持ちで眠りにつくことができる。

 

 

マリアをこれからもずっと信頼し続けてね。それがマリアの幸せなんだから。

 

 

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                                 信頼関係ができた今では、自然にこんな笑顔を見せられるようになったんだ。

 

 

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