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Sometime Atlas

第一章 『向日葵の花飾りに込められた希望』 02

やがて、生まれて始めて2時間弱の空の旅を経験し、空輸のためのバリケン(動物を運搬するための丈夫な箱)から開放された2頭のブラックとイエローのラブラドールが、それぞれOさんとカミサンに引かれて仲良くしっぽを振りながらボクのクルマの元に歩いてきました。その首輪には、鹿児島のボランティアの人たちが「幸せになってね」という想いと希望を込めた、小さな向日葵の花飾りが付けられていたのを覚えています。

2頭ともにトリミングを済ませ、お嫁入りじゃないですけど、精一杯のオシャレをさせて送り出してくれたのです。後で聞けば、鹿児島から東京にやってきたすべての犬たちに、向日葵の花飾りが付けられていたのだそうです。



 

エクル鹿児島出発日向日葵の花飾り.jpg

けれども、生まれてから、環境はともかく、ずっと一緒だった姉妹はここで引き離されることになります。エクルは頼っていたランプお姉さんとお別れしなければなりません。これからはそれぞれ別々の場所で、別々の飼い主の元で、別々の犬生を送ることになるのです。

 

クルマはいつまでも停めていられません。ゆっくりと最後の別れを惜しませてあげることなく、エクルをワゴンの荷室へ乗せました。不思議なことに、「クルマに乗せようとすると暴れるんじゃないだろうか」というボクたちの心配とは裏腹に、短い鎖につながれたまま育ち、犬らしく走り回ることすらできなかったため前足が仔犬のように短いエクルは、自分の意思とラブラドールらしい跳躍力でスッとワゴンの荷室に飛び乗ったのです。

 

そうして運転するボクと、「エクルを寂しがらせないために少しでも近い場所に座るわ」と後席に乗ったカミサンとエクルはわが家に向かって走りだしました。ルームミラー越しに見える小さなエクルはずっと後ろを向いています。到着ロビーの歩道でいつまでも手を振ってくれているOさんの傍らに佇む、どんどん小さくなっていく姉のランプの姿に見入っていたのでしょう。

 

鹿児島の山中で、夜は星と月の明かりの下で育ったエクルは、夜の羽田空港からわが家に向かう、首都高湾岸線を走っている間、ずっと目をこらして後方へ流れ去る景色と光を眺めているように見えました。「これからどこへ行くんだろう、これからどんな運命が待っているんだろう」そう小さな頭で考えていたのかも知れません。

 

かつて見たことがない、クルマのヘッドライト、左右に広がり流れていく東京湾岸のまばゆいばかりの街明かりがめずらしく、クルマのスピード感が不思議に思えたのかも知れません。「世の中にはこんな世界があったんだワン」と夢をみているような気持ちでいたのかも知れません。

 

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