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Sometime Atlas

第四章 『不思議な力』 01

わが家では、迷い犬や里親を探している犬の一時預かりをすることがあります。

  

ある日、放浪していた犬を連れ帰り、犬のお友達に聞き回ったり、保健所に連絡してはみたものの、飼い主につながる情報は得られませんでした。そこでしばらく面倒をみて、少しでも社会性を身につけさせ、犬が落ち着きを取り戻したころ、街の情報誌の「犬の里親募集」のコーナーに掲載してみたのです。すると、里親としてその犬をかわいがってくれる、とても優しい飼い主に巡り合うことができました。

 

  

わが家から引き取られていくとき、ちょっと寂しかったですけど・・・・・そんなもんです。

 

 
迷い犬だったハスキーは飼い主の元に無事帰り、ビーグルは若い夫婦に引き取られ、あるゴールデンレトリーバーはわが家が保護してから3週間を経過し、それならと里親も決まったころに、超高級スポーツカーに乗る若い男性が飼い主であることが判明 (犬がいなくなってしばらくしてから保健所に問い合わせたそうです) 。けれども、彼は愛犬をかわいがってくれるなら・・・とそのまま譲ってくれたのです。

 
最近ではマリアを保護してくれた東京のボランティアからの預かり犬、ゴールデンレトリーバーやラブラドールレトリーバーがわが家を経由し、里親が見つかり、今ではその多くが幸せに暮らしています。ある友人は、「あなたの所を経由するとかわいそうな犬達も不思議とみんな幸せになれるわね・・・」と言ってくれました。最高の褒め言葉じゃないですか。


ある8歳のゴールデンレトリーバーは何回も里親面接をしたのですが、しかし高齢犬ということもあってそうは簡単に決まりません。そりゃそうです。ただ、高齢だから、という理由だけでもないんです。

  

不思議なことに犬は、気に入らない里親希望の相手(人間)に対しては、わざと嫌がられるようなそぶりを見せるような気がします。

  

そばで観察していると、「この人の家には行きたくないワン」という感じです。目がボクたちにそう訴えています。

  

そういうときはまず縁がない。その都度、東京のボランティアのOさんは「必ずいい縁があるからガッカリしないで・・・」と言ってくれます。そしてそれは現実となり、高齢であるにもかかわらず、愛情深い飼い主に、無事、巡り合うことができたのです。

  

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マリア(左) と  8歳のゴールデンレトリーバーのアヴィ。 ほんの少しの期間、いっしょにいました。アヴィ は控えめな子で、一時預かりの身であることを分かっていたのか、決してマリアの前に立たず、夜は最後まで玄関で寝ていました。

 

 

しかし、もっと劇的な運命をたどる犬もいます。レモンというとても可愛いゴールデンレトリーバー(4歳♀/当時)です。出身はマリアと同じ、鹿児島の崩壊した繁殖場。鹿児島のボランティアが発信していたブログのトップページを飾っていた1頭でした。

 
およそ2年前、同じゴールデンレトリーバーのナナを亡くしていることもあって、カミサンはその悲壮な姿が目に焼きつき心に残り、毎日ブログを見ては涙を流していたそうです。

 
そんな想いが通じたのか、偶然にも別の犬の件で連絡した東京のボランティアのOさんがレモンを保護していました。そしてカミサンはぜひ、レモンの里親になりたいと申し出たのです。

 
実はその時、ボクはイタリアに出張中でした。
携帯電話に「ゴールデンレトリーバーの里親になりたいんだけど、承諾してもらえる」とのメールが入りました。
返信は「もちろん」。
そしてカミサンから送られてきた「もちろん」の返信はいまでもボクの携帯電話のメール受信ボックスに残っています。短い文章の中に、カミサンの想いが凝縮されていて、なんか消すに消せないでいるんですよ。

 
タイトル「感謝の心をこめて」
本文「承諾してくれてありがとう。嬉しいです。とってもいい子でした。小柄ですが、ナナによく似ています」---END---


ボクはまだイタリアに到着したばかりだというのに、レモンというゴールデンレトリーバーに会いたくて、一日も早く、日本に帰りたくなったものでした。

  

 

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いきなり、こんな写真ですいません。イタリア出張は 『F1 イタリア グランプリ』の取材。マリアのパパはそーゆー仕事もするんです。ミラノに泊まり、買い物&イタ飯 三昧・・・じゃなかった、ホテルとモンッア・サーキットの往復の3泊5日。ちなみにこの写真、マシン、ヘルメットは06年~08年参戦のホンダF1レーシングチームの佐藤琢磨選手のものですが、顔だけボク。サーキットでサービスしてくれた合成写真ですね。ホンダF1 懐かしい。

 

 

トライアル期間とはいえ、レモンがわが家にやって来たときは、家族みんなに特別な想いがありました。もう、かわいくてかわいくて仕方ありません。レモンといっしょに撮ったカミサンの笑顔にそれが現れています (トライアルとは、その犬が新しい家庭、家族になじむかどうか、判断するための期間。トライアル期間を経て、本当に里親になるか、ならないかを決めるのです)。

 

 

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 レモンがやってきた日の夜。カミサンの嬉しそうな顔ったらありません。レモンはまだ不安な目をしていますが、それでも楽しそう。ガムをくわえています。

 

 

わが家にレモンがやってきた日は避妊手術の抜糸の予定でした。が、ボランティアのいきつけの病院がこんでいたため、こちらの近くの動物病院で抜糸をすることになりました。

  


その夜、カミサンと娘がレモンとリビングの床の上でジャレあっていたときのことです。レモンはまだ来たばかりだというのに、おなかを見せて甘えています (おなかを見せるということは、気を許している証拠です)。

  


しかし、あろうことか、カミサンは脇腹あたりに小さなしこりを発見してしまったのです。翌日、近所の動物病院に行き、抜糸と同時にしこりの検査をすることになりました。なんでもないように・・・と祈るような気持ちで。

  


動物病院から帰宅したカミサンに「しこりはどうだった?」と聞くと「大丈夫よ」との答えでした。

  


その日の夜遅く、台所にレモンを抱きながらわんわん泣いているカミサンの姿がありました。実は、動物病院で、「レモンのしこりは肥満細胞種癌。緊急手術が必要」と診断されていたのです。

 
 

カミサンはその現実を受け入れられずに、こんな時間までボクにそのことを黙っていたのです。ボクがその立場だったら、同じだったかも知れません。レモンはまだトライアル中です。東京のボランティアのOさんに連絡をしない訳にはいきません。夜分でしたが連絡すると、「手術はこちらでするので明日連れてきて」との指示でした。

 
 

レモンはわが家にくる前に避妊手術をしたばかり。ということは、レスキュー犬の面倒を見てくれている獣医が開腹しているわけですから、注意すれば見逃すはずはない。

 

 

でも、カミサンは獣医が気づかなかった腹部脇のしこりを発見してしまったのです。お腹を丁寧にさすってあげなければ分からない触診であり、ある意味、"不思議な力"、神の手の持ち主です(かなり大げさですが)。その晩、カミサンは朝までレモンのお腹をさすりながら、そばにずっといたことを覚えています。

  


レモンはまだ4歳。癌という大病を患うには早すぎるではありませんか。鹿児島での苦労がたたったのでしょうか。そういえば東京に来る時、動物病院から鹿児島空港にクルマで向かう途中、吐いていたと聞いていたし、わが家にきて獣医まで10分足らずの距離でも、苦しそうに吐いていました。「きっとこれまでクルマに乗ったことがなく、クルマ酔いしやすいんだよ」と勝手に解釈していたのですが・・・。

  


翌日、朝一番で、レスキュー犬の面倒を見てくれている獣医の元を訪れました。再診断の結果、やはり肥満細胞種癌に間違いなかったのです。レモンは入院。結果は数週間後。癌のグレードがⅠなら処置によって治る可能性がある、しかしグレードⅢ以上だと、かなり深刻である、という獣医の説明でした。

 
 

わが家に来てまだ2日目だというのに、レモンの肥満細胞種癌という検査結果に向き合うことは、とてもつらいことでした。

 
 

数週間後、レモンの正式な検査結果が出ました。残念ながら、肥満細胞種癌はグレードⅢ。治療をしても余命は限られる・・・その宣告はあまりにも残酷でした。そしてレモンは二度と、わが家に戻ってくることはありませんでした。

 

 

命が尽きたから・・・・・・ではありません。東京のボランティアの元に戻ったレモンは、その後、信じられない運命をたどることになるのです。

 

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