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2.卒業設計「空飛ぶ家」 -学生時代

ローマでの体験

 

 ここでは、私の大学時代の卒業設計の話を紹介したいと思います。
 1971年、私はアメリカのノートルダム大学建築学科を卒業しました。5年のプログラムでした。そして、卒業設計として制作したのが「空飛ぶ家」です。友人たちが現実的な建築物を設計するなかで、私はこだわりをもって「空飛ぶ家」を選択しました。その経緯について、大学時代の思い出を交えながら話しましょう。
 1969年、大学4年生になったとき、大変、すばらしいことが起きました。当時、イタリア系アメリカ人の建築学科の学長が、建築学科の4年生、約40人のクラスを丸ごと、アメリカ・インディアナ州の本校からローマに移したのです。その学長は以前から、「伝統的な建築物が残るイタリアで学生を学ばせてやりたい」と望んでおり、私が4年生のときに実現したのです。ローマ郊外に移った私たちは、近所の学校の教室やマンションのガレージなどをスタジオとして、アメリカの本校と変わらないカリキュラムを受けました。
 本校と違ったのは、休暇の期間ぐらいです。アメリカを離れたプログラムだったこともあり、特別に休暇を延ばしてくれたのです。休暇中、私たちは、なけなしの金をはたいて中古車やバイクを購入し、ヨーロッパ大陸を飛び回ったものです。いろんな都市をめぐり、いろんなことを見聞きし、いろんな体験をしました。
 もちろん、みんな学生でしたから、いわゆる貧乏旅行でした。しかし、このときの体験は強烈で、当時の友人たちはいまでも口をそろえて「人生のターニングポイントとなった経験」といいます。貧乏学生の集まりでしたので、食事はレストランや食堂などではなく、もっぱらフリーマーケットやバザールの果物などで済ませていました。そんなある日、いつものようにイタリアのバザールで食事をしました。そのとき、バザールのおじさんやおばさんが、とても幸せそうな笑顔を見せていることに気付きました。決して裕福に見えないおじさんやおばさんたちが、見せるとびきりの笑顔。それまで、財産(お金)の有無が「幸せかどうか」の基準のひとつなのかなと思っていましたから、私にはとても魅力的に映りました。同時に、「お金ってなんだろうな」とつくづく考えさせられました。ヨーロッパ各地をめぐる旅行を通じて、個人的には、あの笑顔から人生の一部を学んだような気がします。

 

国際コンペティションで入賞

 

 写真右端が大学生時代の私

鈴木氏・学生時代.jpg そんな体験を経て、私は内面から少しずつ変わっていきました。さらにいえば、外観も大きく変わりました。休暇が終わり、4年生のカリキュラムが始まるころ、短い髪が長髪となり、ラフなシャツにジーンズというヒッピー風のファッションに身を包んでいました。いまでは信じられないでしょうが、私にもそんな時代があったのです(笑)。ともあれ、ヒッピー風のファッションのままローマで1年間のカリキュラムを受けて、1970年に本校に戻ります。待っていたのは、最大の課題である卒業設計でした。しかし、いままで学んできたカリキュラムを振り返っても、「これだ!」と感じるテーマが思い浮かびません。悩みに悩んでいた折、ミサワホームの国際デザインコンペティションがあり、気分転換も兼ねて出品することにしました。
 テーマは「パーソナル・スペース」。プレハブ住宅という工業化された住宅をいかにパーソナルにデザインできるか、というテーマでした。ここで、私は「パーソナルとは、自分の思い通りの住宅を自分の手でつくることだろう」と解釈し、DIYシステムをベースに設計を練りました。DIYシステムにするためには、素材はできるだけ軽いほうがいい。私が導き出した答えが、空気構造でした。空気構造といえば、風船が基本です。つまり、球体ですね。球体の構造を大きな住宅に応用するには、いくつかのパーツに分ける必要があります。ここで、球体をどのように割るのかという難題にぶつかりました。その方法を調べていくうちに、くだんのフラードームに行き着いたのです。
 フラードームについては、前回も話しましたが、もう一度、説明することにします。フラードームは、私が尊敬する学者であり、思想家、デザイナー、建築家、発明家、詩人のバックミンスター・フラー(1895-1983)が考案した構造体です。原型は、20個の正三角形で構成した正二十面体(regular icosahedron)です。フラーは、正二十面体の三角形をさらに割って数を増やし、より球体に近いフラードームをつくりました。このフラードームは、1967年のカナダ・モントリオールで開かれた世界万国博覧会で、アメリカのパビリオンとして採用され、脚光を浴びました。
 もちろん、ほかにも球体を割る術はありますが、私の調べた限りではフラードームが断トツにすぐれたシステムでした。ですから、フラードームの三角形をモジュールにして、フラードームそのものを空気構造にしたプレハブ住宅の設計を試みました。具体的には、三角形の2重幕モジュールを空気で膨らませクッション状にし、それぞれをジッパーでつないでいくというシステムです。そして、だれでも気軽に購入できるよう、ホームセンターやデパート、あるいはインターネットでキット販売する方法を提案しました。この作品でコンペティションに応募し、佳作を受賞しました。生まれて初めて応募したコンペティションでの受賞でしたので、当時はそれなりに喜んだものです。

2010.03.29|22:58|GOoD DESIGN

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