7.水と原子:アトメトリックス①
水分子の結合角の疑問は解消しましたが、今度は原子構造そのものに魅了されました。信じられないかもしれませんが、これだけ科学が発達した世の中にありながら、原子構造の定義はいまだに曖昧です。陽子と中性子を内包する原子核があり、その周囲を電子が回り雲のような殻を形成していることは分かりましたが、それ以上ほとんど解明されていませんし、今の科学者は解明しようともしません。なぜなら、不確定性原理があるからです。不確定性原理とは、ノーベル物理学賞を受賞したドイツの物理学者、ヴェルナー・ハイゼンベルクが提唱した原理で、原子や電子の位置を正確に計測すれば運動量が測れなくなり、運動量を計測すれば位置が曖昧になり、ひいては位置と運動量を同時に正確に計測することは不可能とした論理です。これにより、原子構造のボールとスティックの建築的モデル化はナンセンスとみなされ、代わりに原子や電子などスケールの小さい現象を説明するための量子力学が確立し、建築的モデルではなく数式で定義するようになりました。
私の考えは違いました。たしかに不確定性原理の通り、原子や電子の位置と運動量を計測するのは不可能かもしれません。しかし、原子や分子が構造的に安定するからこそ、物質宇宙が成り立つのであって、構造の安定には秩序があるはずです。この考えを出発点として、秩序とは何か、をテーマに原子構造のモデル化に独学で取り組みました。
原子構造のモデル化「アトメトリックス」
研究を始めて約半年後、自分なりに結論を導き出し、原子構造のモデルも製作しました。私の理論のベースは、テトラ(正四面体)です。以前、「構造と形」で話したように、テトラは最もシンプルな自己安定型の三次元形状です。これがオクテット則の由来です。すなわち、テトラは4個の電子で安定する、8個はその2倍でなおさら安定するのです。2つのテトラで構成するテトラ・オクタンギュラ(星型八面体)の頂点を結んでできるキューブ(正六面体)を一つの原子の秩序ある構造に位置付け、「アトメトリックス」と名付けました。
構造のモデル化と言えば、20世紀初めにアメリカの物理化学者ギルバート・ルイスが考案したルイス構造式があります。ただ、ルイス構造式は二次元の表記法であり、加えて互いに電子を共有する化学性質の共有結合を表示できなかったため、後に量子力学的共鳴の概念から生まれた共鳴構造を追加しなければいけませんでした。
ところが、このアトメトリックスを使って水の分子構造をモデル化したところ、原子のみならず分子構造が目に見えて分かったほか、原子と原子が結合して分子を形成する際の結合角なども予測できるようになりました。原子や分子の一つ一つの電子の位置、そして共有結合などの関係性をモデルで示した世界で初めてのモデルと自負しています。
次にフラーレンのモデル化に取り組みました。フラーレンとは、C60の化学式が示す通り、炭素原子60個で形成する分子です。
少し脇道に逸れますが、フラーレンについて話したいと思います。フラーレンの由来は、バックミンスター・フラーです。1996年度のノーベル化学賞は、イギリス人化学者のハロルド・クロトーとアメリカ人化学者のリチャード・スモーリー、ロバート・カールの3人が受賞しました。受賞理由は、サッカーボールと非常に似たC60(炭素60分子)の構造を解明した功績です。そして、受賞者たちは、次のように話しました。「C60の構造を解明できたのは、フラードームを研究した結果である」。ゆえに国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、フラーに敬意を払いC60のような多数の炭素原子で構成するクラスターの総称をフラーレン、バックミンスターフラーレン、あるいはバッキーボールを命名したのです。
学会誌『FORMA』に投稿
さて、話を戻しますが、私はこのフラーレンをアトメトリックスに基づきモデル化しました。すると、水分子と同様に、炭素原子の電子の位置関係や二重結合の関係性がひと目で分かるようになりました。そして、カーボンナノチューブをアトメトリックスでモデル化した場合も、同じ成果が得られました。
私は、独学でたどりついた原子構造のモデル、アトメトリックスについて、論文にまとめて国際学会誌『FORMA』に送りました。FORMAは形を意味するラテン語です。なぜ形に関する学会誌だったかと言えば、人脈を駆使して行き着いた先が『FORMA』だったからです。
◆次回更新は2012年1月10日の予定です
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