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3.環境-ブルース・リプトン

環境はDNAさえも書き換える

 

「教育環境が大切」という持論を展開しましたが、環境と言えば、おもしろい話があります。2009年、アメリカの細胞生物学博士であるブルース・リプトン氏が、五井平和財団の五井平和賞を受賞しました。私は、以前から彼の著書を読んでいたこともあり、授賞式で行なわれた受賞記念講演を聴きに足を運びました。


es-goi heiwa.jpg「新しい生物学が明かす『心の力』」と題した講演で、彼はこれまでの研究によって明らかになったDNAと環境の関係について語りました。
 1953年、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックが、DNAの二重らせん構造を発見して以降、DNAが生物の特性をコントロールするという説が定着しました。がんなどの病気は遺伝しやすいという遺伝子決定主義です。DNAの解析が進む現在、その考えは、一般社会で根強く支持されています。

2009年度五井平和賞を

受賞したブルース・リプトン氏

©五井平和財団


 しかし、リプトン氏は長年の研究で、「DNAは重要な存在だが、それ以上に環境が重要だ」と遺伝子決定主義に一石を投じました。リプトン氏は、40年以上前、幹細胞をクローニングし、環境を変化させながら経過を観察しました。その結果、組織培養皿を良好な環境から劣悪な環境に移すと、細胞が病気になったと言います。リプトンの実験成果は、多くの学者が同意しました。ことわざである「病は気から」が科学的に立証されたわけです。
 また、リプトン氏は講演の中で、子どもが「親の愛情」という見えない環境の中で育つ大切さを説きました。
  es-GIRL.jpg 私事ですが、終戦間もないころ、まだ田舎だった埼玉県狭山市に生まれ育ち、日本人離れしていたことからいじめに遭っていました。そんなことから、大半は、外でケンカをしていたか、家の中で「マンガ」や「絵」を描いているかのどちらかでした。私の「作品」はすべて父が保管し、彼の事務所にお客さんが訪ねてくるたびに披露して自慢していました。いじめに遭っていた私ですが、小さいころから父や母に褒められ、勇気づけられてきました。
 また、8歳のとき、セント・メリーズ・インターナショナル・スクールに転校したときです。初年度の先生が「あなたは絵が上手だから、授業は受けなくてよいから絵を描きなさい」と話し、私に個室を使わせて毎日のように課題を与えてくれました。その一つが、ここで紹介する「女の子」の絵です。「褒める環境」がどれだけ私の子ども時代の支えとなり、才能を開花させてくれたかが、お分かりいただけると思います。やはり、愛あふれる環境は、すごい力を持っていると思います。

                               

                          

 

                                          ©鈴木エドワード建築設計事務所

競争原理の環境を変えよう

 

 これは、私見ですが、今の社会から争いや競争がなくならないのも、人のマインドに起因する見えない環境が原因だと思っています。そのマインドは、弱肉強食です。かつて、バックミンスター・フラーは、皮肉とユーモアを込めて次のように話しています。


「昔、『人口論』のトマス・ロバート・マルサスが、東インド会社の依頼で調査した結果、"人類は、人類が生産する食糧以上に増加している。したがって、最終的には戦争が起こり、勝ったものが生き延びていく"という理論を展開しました」


「その後、『種の起源』(進化論)のチャールズ・ダーウィンが、"もし、マルサスの理論が正しければ、弱肉強食で一番強いものが生き延びる"とマルサスの理論を発展させました」


「さらに、その後、『資本論』のカール・マルクスが"もし、マルサスやダーウィンの説が正しければ、食糧の生産に直接かかわる労働者こそが生き延びるべきだ"と展開しました」


「こうして、今の社会がある」とフラーは結んでいます。


  実際はどうだったでしょうか? 1957年の国連連合食糧農業機関(FAO)のレポートで「人類はここにきて初めて、人間が開発したテクノロジーによって、これだけ人口が増えても、食べさせられるだけの手段ができた」と発表されました。この時点で、マルサスの理論は、時代に合わなくなってしまいました。にもかかわらず、以降も世界はマルサスやダーウィンの理論に支配され、争いが絶えません。
 フラーも、次のように嘆いていました。
「世界の政治家は、FAOの発表に基づき、争いごとを避けるための政治をしているだろうか。非常に疑問に思う」
 私はフラーが嘆いたように、ダーウィンの弱肉強食のマインドが現代社会のルーツにあるように思われて仕方ありません。「競争は正しい」、「競争に勝ち抜くことは素晴らしい」というマインドです。
 たしかに、競争は自分が持つ能力を磨くきっかけになったり、人を成長させたりする面を持っています。しかし、行き過ぎた競争心は、他人をないがしろにし、自分勝手が横行する社会を形成します。世界を不景気のどん底に落としたリーマン・ショックも、競争の闇から生まれた弊害ではないでしょうか。
 競争について、もう一つ考慮すべき話があります。生物学の研究成果です。自然界では、「競争に勝った種が生き延びる」という説が、これまで有力とされてきました。ところが、最近の研究で、今の自然界の種の成り立ちは、競争以上に「協力」によってできたという事実が分かってきました。
 弱肉強食の象徴とされていた自然界でさえ、実はそうではなったわけです。ですから、もう、弱肉強食の考えにとらわれた社会はたくさんです。これからは、今までと違うパラダイムシフトが必要で、それに基づいた社会の形成が望まれます。そのパラダイムシフトを全員で考え、実現に向けて行動する時代に来ていると思います。

                           ◆次回更新は2011年1月11日の予定です

2010.12.27|00:00|GOoD DESIGN

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