連載第002回 1.DESIGNとは何か? バイオ・ミミックリー
バイオ・ミミックリー~自然から学ぶ~
最近、バイオ・ミミックリー(Bio-mimicry)と呼ばれる研究が活発になっています。ミミック(mimic)は、「マネをする、コピーをする」という意味です。つまり、生物から学び、その原理を応用する学問です。これに、世界各国そして広い分野の人々が気づき始めたのです。人がようやく自然と共に生きること、自然に学ぶことに気づき始めたのです。人類の歴史、科学の歴史よりもっともっと長い時代を生き抜いたありとあらゆる生物には、生き抜くための「知」が凝縮されているのです。
2010年1月23日の日経新聞に、日東電工がヤモリをまねた粘着力の強いテープを開発したという記事がありました。壁にはりつき動き回るヤモリの足の裏には微細な毛がびっしり生えていて、毛の先端と壁面の凹凸 が分子レベルで吸いついて粘着力が生まれるというのです。まさにバイオ・ミミックリー。5cm角のテープなら115kgの重量がぶら下げられるというのです。
バイオ・ミミックリーの研究内容をまとめた書籍やWebサイトもあります。Webサイトからいくつか興味深い例を挙げたいと思います。
まず、水辺に生息するカワセミのくちばしから学んだデザインです。それは日本の500系新幹線の先頭部の形状です。あの細長い独特の形状は、実は、カワセミのくちばしがモデルだったのです。
なぜ、カワセミのくちばしを模したデザインにしたのでしょうか?
以前、新幹線はトンネルに入るとき、空気抵抗の関係から「パカーン」という大きな破裂音が出ました。当時、JR西日本技術開発推進部試験実施部の仲津英治氏が、先頭形状を鋭く滑らかにすることでその問題を解決しようと取り組みました。その際、デザインの参考にしたのが、カワセミのくちばしでした。
カワセミは、魚などを捕食するため、流体抵抗の小さい空中から抵抗の大きい水中に飛び込みます。その姿をトンネルに突入する新幹線とダブらせた仲津氏は、開発陣に先頭形状をカワセミのくちばし並みに鋭く滑らかにする必要性を説きました。そして、開発陣がスーパーコンピューターで解析した結果、仲津氏の読み通り、カワセミのくちばしに近い形状がもっとも破裂音がしないことがわかったのです。
また、カワセミのくちばしを模したことで、破裂音の軽減はもとより、エネルギー(電気)効率が約15%も向上したうえ、速度も約10%アップすることができたと報告されています。
次に紹介するのは、アリ塚から学んだ超高層建築の話です。
アフリカには、巨大なアリ塚をつくるシロアリが生息しています。そして、その巨大な塚をよく観察すると、煙突が設けられていることがわかります。この煙突が自然の空気の流れを塚のなかに呼び込み、自然空調の役割を果たしています。実際、寒暖の差が激しいアフリカの地にあっても、塚のなかの温度変化はわずか1℃前後だといわれています。
ジンバブエでは、この原理を超高層建築に応用しています。通常、空調システムを配備するところをアリ塚から学んだデザインを採用することで、約350万ドルのイニシャルコスト(導入コスト)の削減に寄与しました。
最後に紹介するのは、ハスの葉から学んだデザインです。
ハスの葉にたまる水は、必ず球状になります。その秘密は、葉の表面構造にあります。葉をナノスケールで観察すると、表面に細かい溝が走っていることがわかります。つまり、水は溝に入れないため、表面張力によって球状になっているわけです。なぜ、ハスの葉は水を球状にするかといいますと、球状になった水はコロコロと葉から転がり落ちるからです。こうして、セルフ・クリーニングをはかっているのです。
そして、その原理を応用したセルフ・クリーニング機能を持つ素材が開発されています。また、撥水(はっすい)素材として、傘やレインコートなどへの応用も進んでいます。
ひと昔前は、「自然」と「テクノロジー」は相反するものでした。「人間が開発したテクノロジーは凄い」といわれ、それこそ、人間のテクノロジーが自然界を征服してしまうほどの勢いでした。ところが、ここにきて、科学者の間で「自然を超えるテクノロジーはない」ということが明らかになってきました。ですから、バイオ・ミミックリーという新しい分野を立ち上げて、自然を見つめ直し、その原理を応用しようとする研究が盛んに行なわれています。
〝デザイン〟は〝神のサイン〟=DEI・SIGN
デザインはD・E・S・I・G・Nとつづります。しかし、私のデザインは、Eの後にIが付きます。
D・E・I・S・I・G・N、つまりDEI・SIGNです。
DEIとはラテン語で「神」を意味する言葉です。すなわち、「神のサイン」、「神のしるし」という意味です。私には、デザインとは常に自然や神につながる行為に思えます。デザインすることは、大いなる自然や神(のデザイン)から学びその摂理を見いだし、自分なりにユニークにクリエイティブに応用すること、と自負しています。



